“水の都”柳川の民家をリノベーションして1棟貸切の宿にした「夜明の宿」。柳川の象徴といえる水路“ほりわり”の近くで白秋生家の目の前という歴史の深い町にある。この地域で3代に渡り水産業を営む「夜明茶屋」が、1日を通して柳川の暮らしを体感できる。また柳川にある素材や家具をじっくり体感できる場として、リノベーションでは使用しています。
「夜明茶屋」は有明海の海の幸を扱う地元の魚屋。金子社長は毎朝柳川の魚市場で早朝から競りに行き、その新鮮で種類豊富な魚介類を「夜明茶屋」で定食やコースメニューとして提供している人気のお店です。そこで地魚と地酒を味わい、柳の枝垂れる夜の柳川の道を歩いて「夜明の宿」に帰り、そして翌朝には歩いて魚市場の金子社長の競りを見に行き、魚市場の食堂で朝食を、そんなどっぷりと地域に浸ることができる“暮らすように泊まる宿”です。
石畳の道に面していて裏に水路がある柳川の歴史と文化が残る古い民家をリノベーション。現代の新建材での施工ではなく、以前からこの地域で使われていた素材、培われてきた産業を取り込んだ本来の柳川の建物を目指しました。基本的には建物の間取りは変更せず、元に使われていた素材を最小限で手を加えたりアレンジしました。1階のダニングキッチン、風呂、トイレなど水廻りは最新の設備に変更し、明るい空間に。2階和室の畳は柳川の地場産業である「株式会社イケヒコ・コーポレーション」が取り組んでいる柳川産い草で作られている“無染土い草”を使用しました。
宿で使用している家具は、家具の街である隣町大川にある「広松木工」の家具。素朴でありながら良質な木材の存在とディティールを感じるためにはショールームで少し座るだけではなく、ダイニングテーブルでご飯を食べ、リビングのソファでくつろぎ、ベッドで眠る。実際に使う長い時間を経て伝わる魅力という「夜明の宿」のコンセプトと広松木工の想いが一致して、この取り組みに賛同されることになりました。
木材は日田杉を使用。歴史的に日田と柳川、大川は筑後川流域として交流が深く、とりわけ木材は川上にある木材の産地日田から筏で運び、川下にある柳川や大川に届けていました。この地域の建物はそういった地理的環境により日田の木材が多く使われた繋がりがあります。特に大川が木材産地でないにもかかわらず全国的に有名な家具の街となったことも、日田の木材を仕入れて船大工たちが家具を作り出したという歴史があったからのこと。こういった土地の本来の繋がりをこのプロジェクトでは大事にしています。
内装には当社の運営する「水処稀荘」の壁の色や書院建具の窓など、共通するところが多く見られます。これは夜明茶屋の金子社長が水処稀荘の内装を気に入っていただき「水処稀荘の2号店と思われてもいいから、この色や窓など内装を同じようにしたい」というリクエストに応えた形になりました。水の中のような濃い藍色、書院建築に使われていたアンティーク建具を窓の装飾に施工、フローリングは日田杉赤身材の“浮造り”に、ファサード玄関には日田杉赤身材のルーバーなどを使用しています。